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2011年3月14日 (月)

双つ龍は艶華を抱く

兄が急死したため、実家の老舗旅館を引き継ぐことになった松波聖。だが、彼に示されたのは紅葉組というヤクザと兄が生前結んでいた土地の売買契約の書類だった。代々引き継がれてきた旅館をこんなところで止めるわけにはいかないと相手にすがりつく聖。そこで、相手が出した条件は一定期間だけ聖に紅葉組の若頭とその双子の弟のオンナになれというもので……

同じBL界で例えるなら、一穂ミチ先生は恋愛を日常のそのすぐ先にあるものとして書いていましたが、この藍生有先生は体の関係のその先にあるものとして書いているようです。それはそれでいいんだけど、どうもこの話は3人の間に愛情が感じられず、だからといって体の関係に割り切るわけでもないのが好きじゃありませんでした。

断れない条件を出されてしまった聖はなすすべもなく双子の手の中に落ちていきますが、アンアン喘いだ直後に毎度毎度「でも、これは一定期間なんだから」だの「従順にしてれば相手も飽きるんじゃないか」だのと決意が大層なものすぎる。お前、ちょっと前に思考が飛んでたし、前にも決意してただろうが!と突っ込んでしまった。流されやすい受けというのとはちょっと違って、どうも行動と言動が乖離しすぎている気がしました。まあ、無自覚淫乱受けというのかな?

攻めズの双子の方がよっぽど筋が通っていると思いました。初期でやってることは脅迫ですけれど、ヤクザだのなんだの言うわりには聖に対して鬼畜じゃなかったなあ。言うことを聞きさえすれば基本的に約束は守るし、体も労わるし、欲しいものも大抵あげるって結構至れり尽くせりじゃないですかね。羨ましいかといわれれば、全くそんなことはありませんが。

しかし、聖と紅葉組の契約で、土地の売買契約については一区切りついたものの、今度は旅館のガラスが何者かに割られるという器物破損事件が度々起こるのですが、正直、犯人が馬鹿すぎるだろうとしか思えなかった。もう少し、手の込んだ仕組みをつくれないのでしょうかね。

BLものでありがちなのが、初め無理やり→でも相手のよさを知る→違う奴に押し倒されて気持ち悪いと感じる→そうか、俺あいつのことが好きだったのか!というパターンですが、この話は最後の部分がそうか、俺あいつらとの体の関係が好きだったのか!みたいに収まるので、後味が悪い。3人は、体の関係というわりには結びつきすぎているけれど、永遠に恋愛感情を持たないんだろうなと思いました。

個人的には、お兄ちゃんの義臣の方が好きでした。情に厚い兄貴のような奴で、結構いい人です。弟はヤンデレ臭がすると期待していましたが、その辺は中途半端で終わってしまったので残念。でも、1番駄目だったのは、主人公の聖の一貫しない思考だと思う。

双つ龍は艶華を抱く (白泉社花丸文庫BLACK) Book 双つ龍は艶華を抱く (白泉社花丸文庫BLACK)

著者:藍生 有
販売元:白泉社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2011年3月12日 (土)

少女禁区

死んでもなお威力を発揮する父親の見えない檻から逃げようとする姉弟の話「chocolate blood,biscuit hearts.」と、家族に手を出さないことと引き換えに、鬼子と恐れられる少女の下僕になった少年の話「少女禁区」の2つです。

万人受けはしないと思うけれど、私はとても好みな作品だった。選評が暗に言っているように、多分若い人向け。でも、この作品の1番良くなかったのは、ホラー大賞のチラシの少女禁区のところで、担当オススメ台詞がさらっとネタバレしているところだと思う。これから読みたい思う人はあのチラシ読んじゃ駄目、絶対。

「choocolate blood,biscuit hearts.」は生まれた時から英才教育を施さた上に全てをスケジュール管理され、ようやく元凶の父親が死んだ後も「遺言」という形で、姉弟が苦しめられる話。少しずつ狂い始める2人に、未だ抜けきらない父親の影。姉が弟を守ろうとする姿が健気でした。ただ、檻から逃れた後に復讐をしようとして、手段がどんどん目的と乖離していくのが不気味で、姉弟の形がどんどんと崩れていき、最後はどうなってしまうのかと思ったところ、結果は凄い姉弟の形を見せ付けられてしまった。これはいい共依存。

今回は姉視点だったので、今度は弟視点が見てみたい……あ、うん。人気が出たらありえなくもないかもしれないじゃないか。続きはないと思うので、同じ時系列で是非。

「少女禁区」は何といっても、少女の恐ろしさと美しさが印象的だった。あざ笑うかのように少年を苦しめ、時折ポツリポツリと真理をはく。親を殺した鬼子と恐れられる面もあれば、祭りの子供騙しな遊びで上手くいかないところに憤慨するような可愛らしい面もあって、少年自身が少女の本性を捕らえかね、だけどそれすらも高見から見下ろすような少女がとっても哀しいんだ。

「形のないものは信じられない」という言葉は、読み終わった後に見直すと辛い。ちょっとくらい可笑しな形であっても、2人が幸せだったらそれでもういいじゃないか。「痛み」が辛さともう1つ言い表せない甘美な面も含むのが酷く淫靡だった。

というわけで、両方ともとても好みの作品でした。雨宮詩歌は、これで伴名練先生の大ファンになりました。次作待ってますよ、先生!

少女禁区 (角川ホラー文庫) Book 少女禁区 (角川ホラー文庫)

著者:伴名 練
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日:2010/10/23
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2011年3月10日 (木)

夢の上1 翠輝晶・蒼輝晶

地方領主の娘として平凡に生きるはずだったアイナが見初められて嫁にいき、波乱な人生を歩むことになる「翠輝晶」と、大抵のことが叶うから何かを望むことがない器用貧乏な男・アーディンが願ってしまった1つの夢の話・「蒼輝晶」が、人の夢の結晶を紐解く夢利きによって語られる話。

読み終わった後に思わずため息を漏らしてしまうほど、どっぷりと世界観にはまってしまった。特に「蒼輝晶」の話には心をうたれました。運命のめぐり合わせが生み出す奇跡と残酷さ、2つの側面の威力がすごい。おすすめです。

何故自分みたいな娘が……と半信半疑で嫁いできたものの、夫となるオープはとても素敵な人で、夢見ていた穏やかな生活がおくれると思った直後、もう1つの人生を歩むことになる、所謂運命に翻弄されたといってもいいようなアイナですが、その強さできちんと自分の進む道を選んでいく姿がとてもかっこよかったです。オープとは、時には衝突しながらも最後にはお互いを支えあっていける関係性で読んでいてとても心が暖かくなりました。

予期せずして身に咎を負わされて、それでも懸命に2人で生きる彼等の元にやってきた「王子」という名の運命によってまた平穏から離されることになるのですが、最後のオープの弟・エシトーファの台詞に驚きながらも、翠輝晶という物語自体はアイナという強さのおかげでハッピーエンドではなくても悪くないものだったのですが、その次の蒼輝晶がこれまたもう。

そもそもの身分は低かったものの、運と天賦の才能でのし上がり、貴族の娘・イズガータについていくアーディンの軽そうな態度と芯の想いの違いがじれったくて、切なくて! イズガータに惹かれながら、わかりすぎているといってもいいほどに身の程をわきまえていて結果的に次に進めない、ある意味で最高に不器用な彼がいとおしかった。幼い頃の御伽噺のような約束を忘れられなくて、ついに行動におこそうとしたときにもぐりこんできたものは、イズガータが求めていた好機で、自分を押し殺してしまうアーディンが本当に辛いです。

復讐を望み、自らを高めたイズガータも、目的を追い求めることを第一としつつ時折本音がぽろっとでる。アーディンに対する想いは一言では言い表せない程複雑で、1人の少女として彼女の望むべき道を歩ませてやることができたらどんなにいいかと何度思ったことだろうか。そんな中で、それをさせてくれないのは「運命」なんでしょうかね。

「翠輝晶」で語られなかった裏側の話にドキッとしつつ、最後の婚約話がアーディン達のほうからはこうなっていたのかと、真実を知ると凄く苦しい。誰が、何が悪いわけではないのに残酷な決断を迫られ、必死で自分を押し殺しあう2人がみていられなかった。自らが進むべき道を見据える彼等は強くもあり、だからこそとっても弱いんだと思います。甘えを持たないという点で。

最後にアーディンが飲んだ酒の味はどうだったのでしょうか。きっとしょっぱくてとても飲めたものじゃなかったんじゃないかとか考えると、妙に叫びたくなります。この馬鹿野郎!

たった2つの話でここまで魅せられるとは思わなかった。次巻も、雰囲気からしてイズガータ+エシトーファで今巻以上に波乱の予感がします。でも、それがいいんですけどね。

夢の上〈1〉翠輝晶・蒼輝晶 (C・NOVELSファンタジア) Book 夢の上〈1〉翠輝晶・蒼輝晶 (C・NOVELSファンタジア)

著者:多崎 礼
販売元:中央公論新社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2011年2月 6日 (日)

金星特急3

この世の栄華を手に入れることができるという金星の夫となるため、謎めいた金星特急に乗って、時折金星の気まぐれやお願いに応えながら、彼女がいる場所を目指すお話。今度の停車場所は、草原のど真ん中。そこでの課題は「羊追い祭」という傭兵の入れ替わりの祭りで、傭兵の1人に各個人が勝利することだった。どう考えても戦闘能力がそのレベルに達していない錆丸だったが……

とても面白いので、私に早く続きを読ませてください。情報の小出しっぷりが巧みすぎて作者を恨みそうになる。 あ、嘘です。羨んでいるの間違いだったのでとりあえず続きが読みたいです。

仲間に乱入してきたアルベルトは天然なのかなんなのか、場を引っ掻き回す天才ですが、多分悪気はないと信じたい。早速砂鉄と険悪になりましたが、砂鉄といい仲になれる奴なんてそもそも少ないということで金星特急内でこれ以上揉めないようにして欲しいです。持つ者の無自覚な優越と、学者らしい好奇心は濃いキャラをつくっているのですが、個人的には嫌いではないです。

そして、今回戦わなければならなくなった傭兵軍団というのは、砂鉄が属しているものであったわけですが、彼の複雑な立ち居地がまた美味しいです。傭兵軍団の面子も基本的にはいい人なんですが、人を簡単に殺せてそれを悪いとも思わないという前提の上に立つ「いい人」なので、ほんわかした雰囲気が一瞬で変化してしまうような緊張感が身に染みます。砂鉄が金星特急に乗り込んだ理由や、彼の生い立ちまでも明らかになり、彼と妹と産みの親と……妹さんの様子がまた別の所で語られたりして、状況が一筋縄ではいかないところが悩ましいです。でもそれもまた美味しい。

一方で、前回素晴らしい小出しだったユースタスのことがまた少しわかるわけですが、その小出し感がなんともまた! あーでも段々砂鉄とユースタスの関係が柔らかくなってきていて、ニヤニヤしてしまったのは確かです。あまりに初心すぎるユースタスには別の意味でハラハラもするのですが(3Pが何かとか傭兵軍団に真顔で聞かないで下さい)、砂鉄がきっと守ってくれるよねなんて打ち込む自分の顔が既にニヤニヤしています。

でも今回1番嬉しかったのは、ユースタスに砂鉄に錆丸という3人が「仲間」に近づいてくれていたことです。こっそり錆丸を逃がそうとしてくれるユースタスだったり、ちゃんと錆丸を助ける算段を考えてくれていた砂鉄だったりと、友情がまだ小さいながらも可愛かった。錆丸も錆丸で最後の意地の見せ方が実に男前でした。だからこそ、彼の今後がとても気になるわけですが……

書き下ろしの「白鳥はかなしからずや」は、また本編とは異なる男達の下卑た会話が書かれるわけですが、何よりユースタスの発言が可愛すぎて可愛すぎて。でも、最後のアルベルトの発見には、この殿下はまた天然で場を引っ掻き回してくれるんじゃないかと背筋が凍るわけですが。これから何事もないことを祈ります。

金星特急 3 (ウィングス文庫) Book 金星特急 3 (ウィングス文庫)

著者:嬉野 君
販売元:新書館
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2010年10月 8日 (金)

おとぎ話のゆくえ

知り合いの田舎帰りに付き合った挙句、北の地方都市へと流れ着いた来杉隼人。そこは、「お殿様」と呼ばれる人がいる昔の習慣が息づく場所だった。そのお殿様の息子・「若様」こと野衣湊は町の人から慕われる高校生で、何故か来杉は彼に懐かれる。はじめはそんな湊を鬱陶しくも感じていたが、次第に彼に惹かれはじめ……

「好き」と表現するには真っ直ぐで純粋すぎて、でも一旦その想いを言葉にしてしまえば、それは何よりも強い鎖となって互いを締め付ける、そんな「好き」がとても綺麗でした。デビュー作の「雪よ林檎の香のごとく」よりかは大衆向けとなった印象ですが、やっぱり何処か幻想的すぎる雰囲気はあるかも。でも、それが私は好きだったりするんだけどね。

初めはただ湊が懐いていて、2人の間には埋まらない距離があったんだけれど、色々な触れ合いを通じて「若様」の姿と「野衣湊」の姿が見えてからは少しずつ来杉が近づいてくる、そんな描写がとても自然で素敵だった。その変化というのは今迄ながしていた言葉をちょっと真面目に聞いてみたりと小さなものですが、若様という言葉で一定の距離をとる町の人達とは違って、段々野衣湊自身を理解していってくれる来杉というのは湊にとって凄く貴重なものだったのだろうなあ。慰めるわけではなく、さらっとこちらの想いを理解してしまう来杉は、人によってはデリカシーがないと一蹴するのだろうけど、まさしく湊にとっては求めていたもので、そんな2人が惹かれあうのは必然だったのかもしれない。

惹かれあっているからこそ何処かで線をひいてしまう、そんなもどかしい関係性がひどくじれったい。言葉が少しあれば距離を縮められるのに、その言葉を言ってしまえばもう戻れない。互いに互いを探るような2人ですが、そんな自分を自覚している来杉と、ただ純粋な湊という違いが最終的に別離のキッカケになってしまった時は哀しかったなあ。離れていく来杉を必死で追いかける湊がいて、その異なる辛さがまた苦しいんだ。

だからこそ、想いが言葉になったあの瞬間は色々なものが弾けていて、結果的には2人でちゃんと道を切り開いてくれて本当によかったと思う。後日談を読んで、来杉のあまりの可愛さにニヤニヤしてしまったのは私だけじゃないはず。

ところで、この話にはもう1つ「共犯者のゆくえ」という、来杉が北の地方都市にくるキッカケになった慎とその幼馴染2人の関係性の話があるのだけれど、それがまたほのめかしはしつつも明言はしない想いがあって、私好みなんだ。芽生えるかもしれなかった想いを無自覚に潰し、それでも「3人」でいることを望む彼らは罪深いような気もするのだけれど、それはそれでほのぼのとした幸せではあるのかな。ただ、その幸せは本人すらも忘れてしまった想いの消失という上に成り立っていることを考えると、やっぱり少し哀しいのだけれど。

一穂ミチ先生の作品は何だかんだで読んでいないのも色々あるので、時間とお金を探して読んでみたい。そして、次も面白い作品をお願いしますね、先生!

おとぎ話のゆくえ (幻冬舎ルチル文庫) Book おとぎ話のゆくえ (幻冬舎ルチル文庫)

著者:一穂 ミチ
販売元:幻冬舎コミックス
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2010年9月22日 (水)

孤島の鬼

私(本編の語り手)の恋人・木崎初代が殺され、その復讐の為に事件の謎を解こうとしていたところ、さらなる事件に巻き込まれてしまう話。

ミステリーというジャンルではあるのだけれど、何より怖いのは、人の妄執であるという印象を強く受けました。この初代に求婚していた男として諸戸道雄という人がいるのですが、その男は学生時代、「私」の事を好きで好きでたまらないという同性愛者であったのです。そんな彼が急に、私の恋人に求婚するのですから、これは自分を誰かと結ばせない為の策なのではないかと「私」は思います。そんな時に、殺人事件がおき、殺人事件の謎解きを頼んでいた探偵も殺され、益々諸戸は怪しく見える。再会した彼の熱情は相変わらずで、所々の行動も不審である事も鑑みると、やはりその疑いは晴れないのです。

だが、彼のした言い訳というのは、初代の死を探っていたというもので、ある手がかりをもとに、2人で彼の故郷である離れの島に行くことになります。そこで、「私」はまた色々と危ない体験をするのですが……1番印象に残ったのは、初代の持っていた系図帳を元に、井戸に入るシーンでした。

手がかりを失い、井戸の中を彷徨う内に、社会道徳や倫理は掻き消え、諸戸はただただ深く「私」を想う。今迄、精神的なものにすぎなかった表現が、肉体的なものにまでなる。だけど、ここで哀しいのは、「私」は同性愛者ではない事です。友達として諸戸のことは好きではあるし、彼の好意に甘えるかのような仕草も見せますが、やはり「私」は諸戸を愛すことはできないのです。諸戸はそれゆえに嫉妬し、そしてその想いは決して叶うことがない。事件の真相も含めて、この話は深すぎる妄執で彩られています。

このようなお話が何十年も前から存在していたとは、驚きです。誰かを想う事の辛さは、今よりももっと切実なものでした。

孤島の鬼 (創元推理文庫) Book 孤島の鬼 (創元推理文庫)

著者:江戸川 乱歩
販売元:東京創元社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2010年9月20日 (月)

金星特急2

この世の栄華を手に入れることができるという金星の夫となるため、謎めいた金星特急に乗って、時折金星の気まぐれやお願いに応えながら、彼女がいる場所を目指すお話。

やっぱり面白い。金星特急が進むにつれ、旅をする3人の仲も進展していき、訪れる困難に立ち向かっていく姿が実にユニークです。謎めいたユースタスと砂鉄についても、少しずつ素性が明らかになっていくのだけれど、それがまたいい味を出している。ユースタスと砂鉄が良い関係(BLではない)になっていくのがニヤニヤです。

かぐや姫のように、今度は貢物を要求する金星に不信感を抱きながら、密林を進んでいく3人が、まるで家族のようでおかしくて仕方がなかった。ぶっきらぼうだけど、頼れるお父さん・砂鉄、大喰らいなお母さん・ユースタス、素直な子供・錆丸といった具合に、それぞれの立ち居地が決まっていき、そのやり取りにニヤニヤする一方、不甲斐ない自分を改善したいと思う錆丸の真剣さが物語を引き締めます。

そして、貢物の次は金星特急を追いかけなければならないという驚きの展開。初めは上手いこと軍に保護されて、金星特急の情報も掴めて一安心するのだけれど、数日後に金星特急が消えてしまい、ピアスに移る数字だけが減っていくのが実にもどかしい。でも、仲間内で不和に陥るということはなく、手がかりを掴んで次のステージに行くのが、流石3人といったところですね。時間制限のある金星特急を追いかける旅は、大分緊張感に満ち溢れていたけれど、色んな人の覚悟や優しさが見えてよかった。

しかし、何と言っても、ユースタスの素性が仄めかされつつも明示はされず、ラストでまた新しい波乱の種を加えて終わってしまうのが、読者の側からするとずるい。もう、ずるすぎる。書き下ろしの話も、ユースタスの素性を煽るようなもので、面白いけど、面白いからこそ、ずるいんだ! 我ながらしつこいけど、このずるさは読めばわかる。

金星特急が止まる様々な場所に、まるで旅をしているようになります。気になる素性に加え、次は何処に行くのかが楽しみですね。

金星特急2 (新書館ウィングス文庫) Book 金星特急2 (新書館ウィングス文庫)

著者:嬉野 君
販売元:新書館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2010年9月18日 (土)

金星特急

絶世の美女「金星」の花婿に選ばれれば、この世の栄華を手に入れることができる。だが、彼女の元へと向かう金星特急から帰ってきた人はいない。様々な目的で金星特急に乗る人々がいる一方、錆丸は金星に一目惚れしたというそれだけの理由で、金星特急に乗り込む。そこで出会った、無愛想な男・砂鉄と、大喰らいの美貌な騎士・ユースタスとしばらく旅を共にすることになるが……

凄く面白かった! 得体の知れない2人に普通の(?)高校生というトリオのやり取りが楽しくてしょうがない一方、実に気まぐれな金星の恐ろしさと、列車にのる人は皆ライバルだということを思い出させるちょっとダークな部分が上手く絡み合っていて、面白いけど、ギャクだけで終わらず、そのまた逆もしかり。そのバランス具合が素晴らしい。おすすめ。

思ったことをなんでも言うけれど、別に気がきかないというわけではなく、ただ凄く真っ直ぐな錆丸の明るさ故に、テンポが非常によい。何だか色々と得体の知れない砂鉄とユースタスで、2人だけだと時折、曇った雰囲気になるけど、その中に錆丸がいるだけで、それが笑い飛ばせるくらいになるから、錆丸って凄い。金星特急に存在するバベルの双子と呼ばれる不思議な双子に関しても、砂鉄とユースタスが警戒している間にひょいひょい近づいてコミュニケーションを取ろうとするから、何だか拍子抜けしてしまう。警戒していた自分が馬鹿みたいじゃないかと苦々しい砂鉄にも、ついつい笑ってしまった。

でも、その一方で、金星によって、中にいる人がまるごと列車が潰されていったり、金星特急が初めて停車したりと、今迄の金星特急とは異なるその「不測事態」の雰囲気が、空気をピリッとさせます。金星は、男を喰うのだという怪しげな噂や、結局は何がしたいのかという目的の不透明さにドキドキするんだけど、その状況を上手く切り抜けていってくれる3人の仲が最高! 停車駅での上海でも、ちょっとしたことに巻き込まれるんだけど、謎めいていながらも腕がたつ砂鉄やユースタス、その真っ直ぐさ故に物事を丁寧に見ることができる錆丸だったら、もう何でもできる気までします。

まだまだ、はっきりとしない事ばかりだけど、きっとこの3人なら大丈夫。そう思わせてくれる彼らの旅の続きが待ち遠しいです。

金星特急 1 (新書館ウィングス文庫) Book 金星特急 1 (新書館ウィングス文庫)

著者:嬉野 君
販売元:新書館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2010年9月17日 (金)

匣男

狭いところに入ると落ちつくというおかしな性癖を持ち、それを直せないまま、裕福な家庭の長男として、様々な重圧に押しつぶされそうになっていた藤島風宮。だが、彼にはたった1人の理解者がいた。とはいっても、その理解者である葦原祐一郎は、数年前に父親の自殺がキッカケで、外国に行ってしまっていたのだが。いとこの和樹に支えられながらも、日々を苦しんでいた風宮だったが、なんと祐一郎が日本に戻ってきて、自分の秘書になることを知って……

祐一郎という男は、表面上人当たりがよいのですが、ひどく執着心が強く、でもそれは祐一郎の一方通行ではない、そんなゆるやかな関係性が心地よいものでした。風宮は、おかしな性癖を持つがゆえに、理解してくれる祐一郎を望み、祐一郎は、その性癖も含めて風宮を愛す。ある意味で完全な相思相愛である2人は、決して日の当たるところで公表できるような仲ではないのだけれど、その想いは、読んでいるこちらが苦しくなるほど強いものでした。

自分が本当に望んでいるのは祐一郎だけだとわかっていながらも、自分から動くことは出来ず、クローゼットの中に閉じこもる風宮を、年月がたっても、昔のかくれんぼのように見つけてくれる、そんな祐一郎の優しさと、想いの深さにぞくっとします。早く引退を望む風宮をお飾りにするというのは、一見いいようだけどつまり利用されてるんじゃないか?と和樹にも言われながら、死ぬまで騙してくれるなら別に構わないという、そんな言葉を言える風宮の想いも、それは一見純粋なようで、ひどく渦巻いているものがあるような気がして、なんだか出来すぎた関係性に、ひどく不安になりました。

風宮を想いながらも、その想いを認められない浮気性な和樹は、おそらく1番の被害者なんでしょう。誰が悪いという話でもないんですが、もし、祐一郎が帰ってこないなんてことがあったら、風宮の隣にいるのは、和樹であったかもしれません。でも、和樹は、育ってきた裕福な環境もあって、手に入らないものに対する執着心というのが、祐一郎程ではなく、泥沼な展開にならなかったのは、それのおかげでもあると思いますが。もしこれで、和樹がひどく執着心がある人だったら、まず祐一郎がいない間に風宮と体の関係を結んだだろうし……いや、それはそれで面白かったかも。ドロドロだろうけど。

甘やかすがゆえに、加速する。そして、甘やかすほうもそれを望む。だって、その時隣にいれるのは自分しかいないから。でも、それは本当に「甘やかすもの」の一方通行? 相手が欲しいから、わざと「甘やかしてもらった」んじゃないだろうかと、そう言う風宮が酷く、淫猥に見えてしまいました。どちらが先だったのか、そんなのは誰にもわからないのでしょうけど。

結ばれるのが幸せかはわからないけど、彼らは出会ってしまった。その出会いは、必然なのか、後から必然になるのか。色々と考えさせられる作品でした。

匣男 (プラチナ文庫) Book 匣男 (プラチナ文庫)

著者:剛 しいら
販売元:フランス書院
Amazon.co.jpで詳細を確認する

2010年9月16日 (木)

キミログ

ごく平凡な中学2年生・高垣睦は、パソコンをいじっている最中、あるブログを発見する。そこに書かれていた記事や名前から、そのブログがクラスの優等生・曽原淳のものでないかと気付き、なんとなくお気に入り登録をしておく。しかし、その後見たブログで書かれた「好きな人」とやらが、まるで自分のことを指しているようだと気づき……

バッサリ切り捨てると、まだまだ未熟な作品だと思います。偉そうな言い方ですが、上手い文章ではないし、展開もご都合主義なところがふくまれています。でも、中学生同士のもどかしさが半端ではなく、思わずニヤニヤしてしまうことうけあい。

常にクールな曽原が、ブログ(推定)では好きな人に対して甘い甘い台詞を連発しており、しかもどうやら好きな人が自分のようなので、妙に曽原が気になる睦に、まずニヤニヤ。クールに対応していた彼が実は、そんなことを思っていたの!?とそのギャップに嵌ってしまう、そのこそばゆさが半端じゃないです。でも途中で好きな人が自分ではないかもしれない可能性に気付いてしまって妙にがっかりしてしまい、そんながっかりしている自分にまた驚くのが、自分の気持ちを自覚できない中学生らしく、ひどく可愛いんですよね。

しかし、曽原を好きな女の子に協力することになってしまい、その頃には、好きな人がやっぱり自分だと再認識してしまったので、また色々と気まずい。女の子の、そしてブログでの曽原の、誰かを想う真っ直ぐな気持ちに純粋に憧れながら、どうしてそう想えるんだろうとの疑問があまりに若々しすぎて、私は自分の中学時代を思い出してみました。……さて、感想に戻ろうか。

女の子と曽原の気持ちを知っているから、辛い睦がゴロゴロと悩む姿にどうなることやらと思ったり、また発生したほかの問題にヤキモキしたりしたものの、最後は順当なエンドだったと思います。ハッピーエンド好き、プラトニックラブ好きな貴方におすすめです。

でも、この話の1番の魅力は、所々の場面だと思うんだ。睦が家にお見舞い行くシーンと、その後のブログとか、修学旅行の夜の出来事とか! ひどく甘酸っぱくて、なんだかとても羨ましいです。

こういう話は、無条件に「末永くお幸せに」と言いたくなりますね。

キミログ (白泉社花丸文庫) Book キミログ (白泉社花丸文庫)

著者:高将 にぐん
販売元:白泉社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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